ビジョンテック

真山美雪の「この人に会いたい」スペシャル対談第5回記事一覧へ

日本の美点おもてなしを世界へ 第5回:株式会社JTBグループ本社取締役/内部統制担当/法務担当 鎌木伸一氏

「この人に会いたい」も第5回となりました。今回のゲストは、株式会社JTBグループ本社取締役/内部統制担当/法務担当の鎌木伸一さまです。天王洲アイルの本社ビルをおたずねしました。格安航空会社LCCが登場するなど、旅を取り巻く環境は大きく変化しています。平成24年に創立100年を迎えられたJTB。旅のスタイルの変遷のお話から、日本の良いところを発信していきたいとの思いを込めたお話で盛り上がりました。

プロフィール

鎌木伸一氏
(かまき・しんいち)

兵庫県神戸市出身。灘高等学校、東京大学卒業後、1977年旧日本交通公社(現、株式会社ジェイティービー)に入社。2011年よりJTBグループ本社取締役、内部統制担当、法務担当。

鎌木伸一氏

旅で培ったノウハウを活かし 日本の各地で人々の交流と感動を!

鎌木:昨年、弊社は創立100周年を迎えました。私が入社した当時はJTBという社名でなく、株式会社日本交通公社でした。最初は「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」という名称で、外国のお客様、なかでも賓客をお招きし、いわゆる外貨を獲得する国の政策を担う組織として誕生したのです。そこから、いろいろな事業を展開し100年経ちました。最初のころは株式会社でなく財団法人日本交通公社。現在の株式会社ジェイティービー(JTB Corp.)に改称したのは2001年のことです。

真山:外国の賓客のおもてなしからスタートした会社なのですね。旅といえば「JTB」と連想する方も多いかと思いますが、現在はたくさんの子会社があり、いろいろな分野を手がけていらっしゃいますね。

鎌木:2003年に分社化し、そのときにこれからは「交流文化事業を」するグループ企業として認識していただこうとスタートしました。具体的には、地域にはいろいろな課題があり、たとえば経済再生をしたいとか、振興したいとか、自ら地域活性をしていく努力をされているみなさんに、我々も旅行で培ってきたノウハウを活かしお応えしています。今までは旅行会社として、たとえば東京発とか、大阪発と発地を決めて人を送り出すことでしたが、発想を変え、今度は、地域に人を送ります。日本各地、アジア、そして世界を舞台に人々の交流を創造し、促進するのが「交流文化事業」です。

真山:それは、海外に住んでいた時から私がずっと思っていたことと同じです。
ロンドンに住んでいて感じたのですが、海外の方は人によっては日本の事を全く知らなくてとても残念に思っていました。
これからは、日本の良いところや素晴らしい文化を世界の人に広め、伝えることで私もなにか社会貢献ができないかと思っています。

鎌木:我々は日本の会社ですから、ビジネスの舞台は世界ですが、日本の良いところを紹介していきたいと考えています。似ていますね。

お客様にとって常にパーフェクトでありたい それがおもてなしの心

真山:VIPが来日された折などに、同時通訳の方とペアを組んでご案内(バイリンガルアテンド)を任されることがあります。私どもが、場にふさわしい立ち居振る舞いとウエルカムな表情でご案内させていただくことで、快適な日本滞在になったと満足していただいています。また、ワインの美味しいお店やショッピングのお手伝いなどは、通訳とは少し違ったおもてなしだと感謝されました。

鎌木:おもてなしということでは、「感動のそばに、いつも。」これは、当社のブランドスローガンですが、我々JTBグループではJTB WAYというものを定めブランド活動をしており、お客様に感動を与える会社でありたいと努めております。このスローガンを、英語で表す場合は「Perfect moments, always」としているのですが、お客様にとって常にパーフェクトでありたいという心づかい、つまり、おもてなしをという意味なのです。

真山美雪

真山:日本の文化は素晴らしいものがありますよね。たとえば着物がありますが、最近はあまり着なくなってしまいました。とても残念なことです。これからは、着物の良さや、お茶やお華をはじめ素晴らしい日本の文化を海外の方々に伝えていけたらと、思っています。

鎌木:日本のおもてなし、ホスピタリティと言ってもよいでしょうが、これはひじょうに優れているものだと思います。また、文化だけでなく、工芸や産業、もっと他にも、日本には良いものがあるはずなのです。発見されていない素材やコンテンツを発見し、ブラッシュアップし、人々の交流につなげていく。売れるようにするとか、もしくはそこを核にして人が集まるようにする。そのようなことを創造していければと取り組んでいます。

真山:素晴らしい取り組みですね。おもてなしの文化を広げたいですね。
先日、事前にパスポート番号を登録する皇居の公開見学に、アメリカからのお客様をお連れしたのです。建物や歴史などの説明はどの場所も英語のテープのみでした。40名くらいのグループでの移動ですが、日本語がわからない方がほとんどでした。案内係は、英語が苦手のようで、その集団を時間内に誘導するのが仕事のようでしたが、立ち入り禁止らしい歩道や敷石に入った方にGo!Go!と言って手で追いたてる様子は、日本のおもてなしの文化から遠く残念な気持ちがしました。写真を撮って立ち止まっている人にも早くして!という気持ちなのでしょうがゴー!ファースト!と怖い表情で叫んでいて、それが全く相手に伝わっていなくて、彼はなんで怒っているの?と英語で聞かれてしまいました。
世界の人々に日本の良い面を伝えたいという思いが強いだけに、おもてなしの心はどこにいったのだろうとがっかりするとともに、まだまだ私たちができることはあると思いました。

LCCについてはどんなお考えをお持ちですか。

鎌木:お客様の選択肢が増えましたね。価値観の多様化と言ってしまえばそれだけなのですが、富裕層か否かということだけでなく、人によってもケースバイケースで、このときは贅沢に、このときはLCCで安くと、一人の中で上手に使い分けをされています。

真山:今日はフレンチのフルコースをいただくけれど、今日は餃子とラーメンで簡単に済ませよう、といった、イメージですよね。最近ではお客様をグループでお連れするようなツアーは少なくなっているのですか。

鎌木:そうですね。段々変ってきました。いわゆる団塊の世代の方々が退職されて時間ができ、そういう方たちが団体で旅に行くのかというと、必ずしもそうではないですね。それぞれがそれぞれの個人的な旅をされるようになってきている。それに我々がどうやってお役に立てるかになっているのです。私どものグループのブランドに、ルックJTBというパッケージ商品があります。社内用語でZ計画と呼び、究極の商品作りを目指しています。旅行業界は価格競争に陥りやすいのですが、こちらの商品は価格でなく内容で勝負しようじゃないかということでやっているのですが、数件前から利用者の方々から大変良い評価をいただいておりまして、売上もひじょうに良くなっており、やはりこの路線は間違ってないのかと実感しています。

真山:何を求めているかは人によって、時によって、状況によっても違いますものね。

人がブランドを作り、人がブランドを守る 人が財産の企業のCSR(企業の社会的責任)とは

真山:私が日本航空の客室乗務員としてロサンゼルス線に乗務したのときのことでした。鎌木さんがたまたま、団体のツアーコンダクターとしてロサンゼルスに同じ日に入って、その上、宿泊するホテルもボナベンチャーホテルで一緒だったことがありました。

鎌木:ありましたね。偶然でびっくりしました。

真山:団体のお客様がみなさんホテルにお入りになり、ご一緒にお茶でもと、ロビーで鎌木さんと15分ほどお話したところで、急に連絡が入って席を立たれたことがありましたね。

鎌木:年配のお客様が病気になったと連絡が入り、病院の手配や付き添いをしていました。

真山:寝ずに一晩、病気のお客様のケアをなさっていて、ツアーコンダクターという職業は、飛行機のなかだけでなく、降りて現地のホテルに入ってからも本当に大変だなと思いました。

鎌木:自分の時間がありません。ずいぶん昔の懐かしい話です。

真山:2011年6月に取締役に就任なさったのですね。内部統制や法務のご担当と聞き、難しいお仕事のように思います。

鎌木伸一氏

鎌木:内部統制とは、どこの企業様もそうですが、社会目線で見た時に、必要な存在でなければならない。倫理観を持ち合わせ、社会目線から見ても、信頼できる、必要とされる企業でなくてはならない。その観点からグループ全体の社員の方々に行動規範を守って、リスクをあらかじめ管理してそれに添った行動をとってもらう体制を整えていただく。そのようなことをしています。

真山:今ではどこの会社もCSR部門を備え取り組んでいますね。グループには会社が本当にたくさんあるので、浸透させていらっしゃるのは大変でしょう。

鎌木:おっしゃる通りです。JTBというブランドがありますから、ひとつの会社のミスがJTB全体に影響を及ぼしダメージになります。当社は人が財産ですので、人材教育に力を入れておりJTBユニバーシティと呼ぶ教育体系を整えています。社長から、我々も本社にいる人間はユニバーシティの先生であるくらいでないといけないと言われています。

真山:JTBに頼むと安心というブランド力があります。安心安全だけでなく、ホスピタリティを買っている意識があります。
それはスタッフ一人一人が生み出しているのですね。懐かしいお話から、未来への取組みまで、いろいろお聞かせくださいましてありがとうございました。ますますのご発展をお祈りしております。

(2013年4月22日 JTB本社にて)

真山美雪

鎌木さんと出会ったのはまた、私が10代のころでした。私にとってはいまだに、ブリティッシュロックがお好きなベーシストという印象なんです。
しばらくして、私が日本航空で客室乗務員として仕事をはじめましたが、まさか、海外のロサンゼルスのホテルでお目にかかる事があるとは思いませんでした。
家族と英国住んでいた頃にはロンドンの家にお越しくださったり、その後も家族ぐるみで、コンサートにご一緒したり、楽しい時間を共有させていただき感謝しています。

JTBでは法務担当ということもあり、「社内では、あまりニコニコ迎えられる立場ではないのですよ」とおっしゃるのですが、謙虚で穏やかなお人柄は、きっと多くのみなさまの手本となり頼りにされていることと思います。

わたしも微力ですが「日本のおもてなしの心」や素敵な日本の文化を海外に発信して社会貢献ができたらと思っています。

株式会社ビジヨンテツク代表 真山美雪

バックナンバー